クラシックギターファンにとって、ギター製作家はなんというか特別な人(尊敬すべき人?)という感じなのです。
自分のギターを製作した方に会ってちょっと話をしてみたいと思っている人は結構いるはずです。
ただギター製作家の方の中には、表に出ずひたすらギター作製に取り組んでいる影の功労者の方も多いので、なかなか会えないですよね。
今回は実際に自分があったことのあるクラシックギター製作家の方について書いてみたいと思います。
目 次
ギター製作家に会える機会
私の場合はこんなところでギター製作家にお会いしています。
- 弦楽器フェアーのクラシックギターブース
- クラシックギターフェスタ(島村楽器)
- アウラのメンテンス&リペア工房
私はギター製作家の工房に行ったことがないので、一番貴重な体験はまだできていません。表に出てこない製作家に合うには工房に行くしかないとは思っていますが、なかなか機会がありません。
弦楽器フェアー
毎年11月に3日間開催され、弦楽器ファンを楽しませてくれる弦楽器フェアー。今年2020年は新型コロナウイルスのために中止になってしましました。
以前、弦楽器フェアーの記事を書いていますが、一番ドキドキなのは、試奏用のギターを置いてあるすぐ近くにそのギターの製作家さんが居られるときです。
下手な試奏はできないな~って思いが強いのです。自分が下手なことはわかっているので、ギターの性能を発揮できていないし、いい音も出していない(と思う)。
そんな自分がギターを評価するなんてとても・・って感じです。だから試奏にはかなり勇気が入ります。
試奏するときは、とても優しい曲で確実に自分が弾ける曲しかやりません。試奏し終わったあとは、丁寧にギターをクロスで拭いて、そっとギタースタンドに戻すのです。
めちゃくちゃ製作家さんを意識しての行動ですが、そのあと製作家さんが「どうですか?」ってやさしく声をかけてくることが多いです。
製作家さんとのちょっとしたお話の始まりです。その時のことをちょっと書いてみます。
製作家、長崎祐一さん
試奏が終わったあと、「どうですか?」と長崎さんの方から声をかけてきました。『キターーー』って感じです。
私には音とかよくわかりませんので、素直に感じた弾きやすさについて答えました。私にとってネックの形状とか弦の張りの強さが合っていたようで弾きやすいと感じていました。
そのことを伝えると意外なお返事をいただきました。
今回のギターは弦長が660mmなんです。気が付きましたか? 音量を重視した設計で今年は出しました。(長崎祐一さん)
なんと弦長が660mm。私みたいな小柄(身長164cmほど)にとっては弾きにくいはずの弦長だったのです。でも気づきませんでした。
試走した曲が優しい練習曲で、指を大きく広げる必要がなかったので、違和感なく弾けたのだとは思います。
また一般的には弦長が長いほど弦の張りが強く感じるはずですが、そんな感じもしませんでした。弦の張りの強さは「材料によるところが大きい」という話をよく聞きますが、このときの作品は自分的に当たりだったのかもしれません。
私が話を終え、席を外れると次の方が試奏を開始されたのですが、そのとき長崎さんが「気がつくかな~」と私を見てポツリ。私は「気がつかないと思う」と答えてその場を離れました。
製作家、中山修さん
木材に竹を使用した珍しいギターを作成される方です。他の方と話をされている隙きに試奏を開始しました(他人と話している間に試奏を終えれば声はかけられないだろう・・との思い)
自分はどんだけ対人恐怖症なんだろう?って思うけど、誰にも気にされず黙々と試奏をしたいだけです。
・・でも甘かった(笑)。私が試奏を終えようとした頃、他の人との会話が終わって、中山さんから「どうですか?」と声がかかったのです。(作戦失敗!)
「どう?」って言われても、ギターを評価するほどの能力ないし、なんて答えていいか全くわかりませんでしたが、竹を使用した珍しいギターってことだったので、そのことについて聞きました。
「竹でできているそうですけど、ちゃんと普通のギターの音がしますね」とアホな感想をいう私。(だって音色とかは、あの場ではわかりにくいしね)
ここから中山さんの竹ギター作製のお話が始まります。細い竹材を貼り付けていって板にするのに5年かかるという驚きのお話でした。
とんでもなく手間と時間がかかったギターです。でもお値段は通常の手工ギターと同じくらいです。いや~儲からない仕事だな・・と個人的には思う。
大変な仕事だと思うけど、今後とも是非続けてほしいと個人的には切に願うのでした。
その他の製作家さん
あまり長話はしなかったのですが、ちょっとだけ話した製作家さんはたくさんいます。(恐れ多くて話ができなかった今井勇一さんとか、雰囲気が怖くて話しかけられなかった黒澤哲郎さんとかいます)
製作家、山本篤史さん
試走し終えた後、「ありがとうございます」と毎回声をかけてくれる優しい方でした。2日にかけて2回試奏したんですけど「ありがとう」と言われたのは初めて。ありがとうはこちらから言いたい。
製作家、江崎秀行さん
ちょっとした事件が発生したので記憶に残っています。
私はマイ足台を持参して弦楽器フェアーの試奏に望むのですが、なんと私の足台と江崎さんが持ってきていた足台が同じ製品でした。
江崎さんのギターの隣りにあった別の制作家のギターを試奏しているときに、たまたま私の足元に置いていた私の足台を江崎さんが間違えて自分の足台だと思って持っていくというトラブルが発生。
慌てて取り戻しました。足台にはちゃんとネームプレートをつけないとダメだな~と思った瞬間でした。みなさん気をつけましょう。
演奏会の舞台挨拶
毎年プロの演奏家の方が出展ギターを演奏される演奏会には、それぞれの製作家の方が舞台に立って紹介されます。そのとき初めて名前と顔が一致します。
貴重な舞台なので演奏会には必ず参加します。ここ近年、桜井正毅さんは登場せず代理の方が挨拶されることが多いです。代理は確か君島 聡さんでした。
君島 聡さんは、2019年の弦楽器フェアーで自ら作成したギターを展示されていました。話によると、師匠の桜井さんが厳しく、なかなかOKをもらえなかったと言っていました。
クラシックギターフェスタ
島村楽器が主催する年2回のクラシックギターの展示販売イベントです。この中で「クラシックギター製作講義」というのがあります。ここでギター製作家に会えます。
2018年冬のクラシックギター製作講義については記事に書いています。
今年2020年は新型コロナウイルスの影響でクラシックギターフェスタ2020夏が中止となりました。替わりにクラシックギター特別フェアが開催されたようです。
過去に私が受講したギター作製講義は「桜井正毅さん」「横尾俊佑さん」「禰寝孝次郎さん」です。およそ1時間ほどの講義ですが、それぞれの製作家さんの特徴がよく出ていて面白いです。
開催ごとにネタを変えて講義するので、回を重ねても役に立ちます。たまにネタ切れということで、過去にやったテーマを再びやることもあるようです。
桜井正毅さんは話すことになれている感じです。知らなかったことをたくさん聞きました。参加した回数が多いので顔は覚えていただいたようです。
講義で度々力木の構造を見せてもらいますが、年々少しづつ改良がされているようで、やはり研究熱心だということがわかります。
横尾俊佑さんは優しい感じの方です。お話はあまり得意ではなさそうです。ネタが切れて早めに講義が終わることもありました。
印象に残ったのは「ネックがそらない(反りにくい)ことに自信をもっている」ということです。何か1つでも特技があると強いですね。
禰寝孝次郎さんは、1度だけ講義を聞きました。そのときは有名どころのギターの力木構造が書かれた資料が配布されました。
禰寝さんも日々新たな取り組を行っているようで、「今試そうと思って考えていることがある」といった話もありました。
私は何度かギター作製講義に参加していますが、ある年のギター作製講義では、なんと製作家の黒澤哲郎さんが聴講者側の立場で参加していました。確か秋葉原に島村楽器があった頃だと思います。
桜井正毅さんが冗談で「同業者は立ち入り禁止です」みたいなことをおっしゃっていたのを覚えています。
禰寝孝次郎さんの講義のときに、黒澤哲郎さんから表板のチューニングについて質問されていたのが印象的でした。
参加者の中には、実際に自分でギターを作成されているアマチュアの方がおり、講義終了後、自ら作成したギターを禰寝孝次郎さんに見ていただいて、意見をいただくという貴重な体験をされた方もいました。
アウラのメンテンス&リペア工房
アウラはMyギターのメンテナンス目的で過去に何度か伺っています。ギターのメンテ以外では行ったことないかも。
これまでお世話になった製作家さんは3名。ギターを見てもらった順に書くと、
- 尾野薫さん
- 田邊雅啓さん
- 清水優一さん
話してみて皆さんとてもいい方に思えました。
尾野薫さん
弦高調整をお願いしました。こちらの希望は6弦3.8mm、1弦2.8mmです。調整前はほぼ標準の6弦4.1mm、1弦3.0mmくらいだった気がします。
弦高を図るための定規ですが、よく見かけるステンレス性の0.5mm間隔で目盛りがふられているものを使用されていました。
もっと精密に離れる専用のものを使うのかと思っていましたが、意外と普通でした。ただ驚いたことに、希望の6弦3.8mm、1弦2.8mmピッタリに1発で合わしてきたことです。
わたしは0.2mm単位で測れるHOSCOの定規を使うのですが、私の計測とピッタリ同じでした。0.5mm間隔の目盛りでどうやって0.1mmとかの細かい調整ができるのですか?と聞いたところ、目見当で合わせるとおっしゃっていました。
さすがプロです。関心してしまいました。
わたしの使用しているHOSCOを見せて使い方を説明したところ「それ、スグレモノだね」と言っていただきました。(たぶんプロには不要なんですよねコレ)
田邊雅啓さん
ローフレットが押さえにくかったので、ナット高の調整が必要と思い見てもらいました。丁寧に適正のナット高の確認の仕方まで教わりました。
ナットは素人がイジると音が悪くなる可能性があるとのことなの、私はプロ任せです。
多少ナット高を下げてもらいましたが、まだローフレットが押さえにくい感じは残っていました。どうやらネックが順反りしていたためのようです。
反りを直す必要まではない程度でしたので、うまく付き合っていくことにしました。
ネックの反りは嬉しくありませんが、弦高を下げたときにビレにくくなるメリットもあったりします。
清水優一さん
ロマニリョスのコピーモデルの製作で有名な若手の方です。とても話しやすい方です。
清水さんには弦高調整の他、表板の修理もやっていただきました。
河野ギター製作所出身ということも知っていたので、Myギター(桜井PC)を見てもらうのにうってつけの方との思いもあります。
(プロの方はどのギターでも見ることができるのはわかっていましたが、気持ち的にお願いしやすいです)
清水さんには、弦の張りの強さのことや、ネックの接着のこととか、いろいろ教えていただきました。最近一番お世話になった方です。
いつの日か
直接お会いできる製作家の方にMyギターを製作してもらいたいとの思いがあります。メンテナンスもその方にお願いしたいですね。やっぱり顔が見えるってことが嬉しく感じます。