クラシックギターフェスタ 2018冬 桜井正毅クラシックギター製作講義

半年に1度のお楽しみ「クラシックギターフェスタ(島村楽器主催)」に行ってまいりましたので報告いたします。

今回の目的は楽器じゃなくて「桜井正毅クラシックギター製作講義」を聞きにいくことでした。もう何回も製作講義を聞いていますが、毎回新しいネタなので楽しめます。

桜井さんの講義はとても人気があるので、フェスタの様々な場所でやりますが、今回はイオンモール幕張新都心店(2019/1/14)での講義に参加しました。

パート1 材料の違うギターの音色の違いを聴き比べる

ギターの材料(使用していている木材)の違いによる音の違いを聞き比べるという趣旨で、島村楽器のクラシックギター講師の斉藤先生が短いフレーズの弾き比べを行いました。斉藤先生の感想と私の感想を交えて紹介します。

桜井正毅PC-SR(サイドバック材がローズウッド)

島村楽器オーダーの楽器です。一般的にローズウッド(ここではインディアンローズ)を横裏につかったギターは音色が柔らかいと言われています。パリコンのオリジナルは中南米ローズですね。ちなみに私のギターは中南米ローズのマダガスカルです。

斉藤先生の感想

音色が柔らかく軽い感じの音がします。

私個人の感想

同じように柔らかい音に感じます。パリコンぽい音はマダガスカルのものと同じです。

桜井河野Special

先代の河野賢の力木設計で作成されているギターですね。桜井正毅さんは「アポヤンド時代の設計」と言っていました。

近年はアルアイレ主体で演奏することが多く、アルアイレのタッチでも音が会場の隅まで届くように桜井ギターの方は設計していると言っていました。

斉藤先生の感想

柔らかい音です。杉に近い感じがします。

私個人の感想

桜井河野特有の重厚感ある音ですが、私はそれほど柔らかいといった感じには聞こえませんでした。

桜井正毅Maestro-RF(松)

桜井正毅さんギター製作の集大成のような作品です。レイズドフィンガーボード(RF)設計がいかに素晴らしいかを語っていました。

他の制作家の方もRFモデルを作製していますが、桜井RFのように高く持ち上げられないとのこと(桜井さん)。自分の設計に自信を持っているようです。

斉藤先生の感想
  • 弾きやすい
  • 音の立ち上がりが良い
  • コントロールしやすい
  • ピアニシモでも音はOK
  • 高音が綺麗、透き通っている。

※べた褒めですね。正直な感想と思いますが、桜井さんの前なので多少盛っているかもしれません。

私個人の感想

音の出だしから「はっきりとした音」と感じました。確かに高音は綺麗に鳴りますね。

RFは12Fを見間違えるといった意見が聞かれます。私が試奏するとき12F付近に指がくるときは慎重になります。

斉藤先生の感想では12Fのことは触れていませんでした。だぶん違和感なく弾けるのだと思います。

桜井正毅Maestro-RF(杉)Aged

今度は表板が杉でかつAged加工されたギターです。近年クラシックギターフェスタでは毎回Aged加工のギターが出品されています。

ギターを強制的にエージングする加工方法です。これは今のところ島村楽器以外では見たことないです。おそらく今は研究段階のためではないかと思います。

斉藤先生の感想

松のRFと比べると音色が少し柔らかい。RFの性格はでています。

私個人の感想

以前から感じていましたが、杉のRFはなかなかいい音がしています。今回はAgedのものを始めて聞きました。Agedではないものとの比較は聞いているだけではわかりませんでした。

桜井正毅ギター製作50周年記念モデル RFタイプ

ラスボス登場!っといった感じです。桜井さんの50周年記念は2017年でした。このギターも2017年のラベルです。裏横板が200年物のハカランダ(古い教会を取り壊して出てきた木材)。

とてもお高いギターですが、ほどんど売れてしまって、残っているのはごくわずかと思います。50周年記念ギターはPC設計のモデルがメインでしたが、RF設計のもの製作されています。

斉藤先生の感想

堅い音がする。張りが強い。本来の性能を発揮するには引き込みが必要。5年後が楽しみなギター。

私個人の感想

確かに音が堅かった。超期待していたので、ちょっと残念な感じです。私は張りが弱めのギターが好きなのです。弦のテンションもライト~ノーマルを使用。なのでお金あっても買わないかも。

斉藤先生からの質問
Q
張りが強いのは何故でしょうか(斎藤先生)
A

張りの強さは材料によります(桜井さん)

私個人の感想追記

世界の名器と呼ばれるギターはみんな張りが強い感じがします。この手のギターは引き込んだ後が楽しみのギターなんでしょうね。まさに一生ものといった感じです。

パート2 ギター製作の技術論と質疑応答

RFの技術論は以前の桜井正毅ギター製作講義で説明済みなので今回は簡単な説明にとまりました。力学的に弦がサドルを引っ張る方向(ベクトル)の関係で、RFは横に引っ張る力が強いため、表板がよく振動するとのことです。

Aged加工について

ギターをエイジングして鳴りをよくする試みが最近行われています。エイジングはよくスピーカーの話で聞きますが、ギターにも有効であると証明されたようです。ギター製作講義の当日、日本機械学会の論文コピーをもらいました。

エージングは、専用の5角形のボックスに入れて24時間音楽を流しっぱなしにするそうです。やり過ぎると良くないらしく、適切なエイジング時間があるそうです。具体的な数値は聞いていません。

5角形のボックスを使う理由は、音の乱反射を狙ったためだそうです。音が満遍なくボックス内を反射するようにしているそうです。

面白いのはギターに聞かせる曲の話です。クラシックギターを使った演奏曲では良い結果が得られなかったそうです。様々な種類の音をギターに聞かせるのがよく、オーケストラの曲が良いとのこと。

現在エージングで使っている曲は、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲だそうです

ネック裏の2本の黒い線について

Q
「ネック裏の2本の黒い線」は何でしょうか?(斎藤先生)
A

ネックの補強のために黒檀を2本入れてある。黒檀2本とも貫通して指板まで届いている。あのフレタは表面的には見えないがネックの中に2本入っている。最初は1本で試したが、もたなかったので2本入れることにした。(桜井さん)

弦高調整について

Q
弦高調整は自分でやってもよいのか? サドルを削る場合は上面側?底面側?(聴講者から)
A

自分でやってもかまわない。サドルは底面側を削ることを勧める。上面側は角度を付けて削ってあるので底面側を平らに削るとよい。(上面側の角度は60度だそうです)

弦高はフレットの上から弦の下までの高さで計測する。標準的な弦高は6弦4.0mm、1弦3.0mm。押弦がきつい場合には、弦高を6弦3.5mm、1弦2.5mmまで下げても良い。張りが柔らかくなるが音量も少なくなる。

サドルの素材は、安いギターでは牛骨、スペシャル以上では象牙を使っている。(桜井さん)

その他の質問、もろもろ

質疑応答で出たその他の質問に対する桜井さんの回答をここにまとめます。

指板のRについて

桜井ギター(桜井河野含む)は指板に僅かなRを付けている。ストリング弦のアコースティックギターでは指板のRは一般的でもっと大きなRが付いているものだが、クラシックギターではフラットの指板が多い。握ったときに手になじむ形状にしている。

指板を削ることについて

ギターの調整で指板を削ることがあるが、指板は薄くなると音が軽くなる。

膠(にかわ)について

河野ギター製作所では、接着はすべてニカワを使っている。ニカワも進歩していて裏板から剥がれることはなくなっている。昔(1960-1970年頃)はニカワの精製が悪く裏板から剥がれることがあった。

安いギターはタイトボンドが使われるが、堅いし剥がせない(修理できない)ので使わない。

塗装について

クラシックギターの塗料は以下の4種類ある。

  1. ウレタン → 堅くて長持ち 安いギターに使われる
  2. ラッカー → ハウザーはラッカーが使われている
  3. セラック → 高級ギターのほどんどがこれを使用している
  4. カシュー → 塗装技術が難しいので使っているところは少ない(河野、横尾、他)

①~④は塗装の堅い順になっている。※カシューが一番柔らかいそうです。

個体差で出来の悪かったギターについて

ギターは完成してみないと出来はわからない。出来が悪いと感じたギターに手は入れない。エージングすると良くなる。高音がよく鳴るようになる。

ギター製作講義を終わってみての感想

桜井さんは聞けば何でも答えてくれます。しゃべりもそれなりに上手いので、ギターに関していろいろ疑問がある方は是非クラシックギターフェスタのギター製作講義に参加されるとよいと思います。

WEBには書かれていない制作家ならではの話がとても面白いです。「ギター製作講義」となっていますが、別にギター製作していない人でも問題なし。(私自身ギター制作はしていないし)

最後にオススメの弦の紹介がありました。お決まりのアレ「サバレスクリエーションカンティーガ」かなと思いましたが、なんと新型が発売になっていました。

PREMIUM版の「サバレスクリエーションカンティーガ」でした。以前のものより更に音が良くなっているそうです。

説明会場に数個ありました。最後の1つを私が買いました。衝動買いってやつです。